- 大型ハドロン衝突型加速器で、Zボソンの量子もつれが初めて観測された。
- Zボソンは「qutrit」と呼ばれる3つのスピン状態を持つ。
- 研究チームはZボソンの崩壊過程を利用してそのスピンを特定した。
- データからもつれ状態が示す統計的有意性は、科学者らが重視する「5」に近い値となった。
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の科学者らが、Zボソンの量子もつれを初めて観測した。LHCで生成される粒子のもつれが観測されたのは今回が初めてではないが、今回対象となった粒子は異なる性質を持ち、仮想的な対応粒子が存在する。量子もつれとは量子物理学で観測される現象であり、偉大なアルベルト・アインシュタインすら困惑させたほどである。二つの粒子の性質が強く結びついており、一方の粒子の状態がもう一方の状態に依存している場合、これら二つの粒子は量子もつれ状態にあるとされる。
二つの粒子が遠く離れていてもこの関係は成り立つため、アインシュタインはこの振る舞いを「不可思議」と呼んだ。完全な理解には至っていないものの、この現象は量子計算や量子通信といった技術の構築に応用されている。こうした技術はまだ初期段階にあるものの、従来とはまったく異なる未来をもたらす可能性を秘めている。欧州原子核研究機構(CERN)の科学者らは、この現象についてまだ完全には解明しておらず、新たな現象が今も次々と発見され続けている。
Zボソンの独自性
Zボソンにおける量子もつれは、2024年にCERNのATLAS実験によってトップクォーク対のもつれが検出された際に初めて確認された。これに対し、Zボソンで観測されたもつれは様相が異なる。Zボソンは「qutrit」とも呼ばれる3つのスピン状態を持つためである。Zボソンは、ヒッグスボソンがさらに崩壊する過程で一瞬だけ生成される。しかし、ヒッグスボソン自体にはスピンがなく、その崩壊で生じる二つのZボソンは、奇数の合成スピン角運動量を持つことはできない。
二つのスピンは互いに打ち消し合い、合わせてヒッグスボソンのスピンをゼロにしている。これはおそらく、二つのZボソンが共有状態にあるためだと考えられる。ただし、生成過程には大きな問題がある。ヒッグスボソンの質量は125 GeVであるのに対し、Zボソンの質量は91 GeVであるため、ヒッグスボソンから二つのZボソンを同時に生成することは不可能である。必然的に、一方のZボソンは仮想的な粒子とならざるをえない。
量子物理学者たちは日常的に奇妙な粒子の振る舞いを扱っているが、仮想粒子は彼らにとってもなお特異な存在である。仮想粒子は粒子衝突の過程に現れるが、他の粒子のように直接観測することはできない。そこで問題となるのが、これらの仮想粒子をもつれ状態に関与させることができるのかという点である。その科学的実証はとりわけ難しい。Zボソン自体の寿命は3 × 10-25秒と極めて短いため、実在するボソンであってもそのスピンを測定することはほぼ不可能だからである。では、仮想的な対応粒子のスピンを、いかにして確認すればよいのだろうか。
研究手法と課題
研究チームは、Zボソンの崩壊過程から得られる手がかりに着目した。個々のZボソンの崩壊では二つの荷電粒子が生成され、それらはレプトンまたはミュー粒子となり得るため、合計で四つの粒子を検出できる可能性がある。これらの粒子の運動方向は科学的情報を与え、それをもとに元のボソンのスピンを逆算できる。看上去単純な手法に思えるが、CERNの研究チームは十分なデータを得るのに苦労した。長年にわたる粒子衝突データをふるいにかけても、四つのレプトンへ崩壊するZボソンの事象はわずか400件しか見つからなかった。
データから、もつれ状態は非もつれ状態よりも有意に多く観測され、統計的有意性は4.7に達した。これは、科学者が重要な発表を行う前に目安とする「5」に近い値である。この分野では依然としてさらなる研究が必要であり、仮想粒子とその振る舞いについては多くの発見が残されている。
これらの結果は『Physical Review Letters』に掲載された。
Zボソンの量子もつれが持つ科学的意義
Zボソンの量子もつれの観測は、素粒子物理学における重要な進展を示すものである。これは量子もつれへの理解を深めるだけでなく、量子計算や量子通信技術の発展を促進する可能性がある。仮想粒子の振る舞いについてはいまだ多くの未知の部分が残されているが、この研究は今後の探求に新たな方向性を与えるものである。量子もつれの応用可能性は極めて大きく、情報伝達や計算効率の分野を中心に、技術のあり方そのものを変える可能性を秘めている。

